吉本ばなな「キッチン」の感情表現について

 2022-01-19 11:01

目         次

一 はじめに 1

二 作家と「キッチン」について 3

三 主人公たちの孤独について 6

四 死と生について 7

六 感情の中の成長 9

七 終わりに 10

致谢 14

吉本ばなな「キッチン」の感情表現について

唐燕 20141322017

要旨:吉本ばななの「キッチン」は第六回海燕新人文学賞作として、『海燕』に掲載され、その三ヶ月後に後編として「満月ーキッチン2」が『海燕』に発表された。若者たちの間に大人気な小説として、この小説はキッチンをめぐって、主人公の桜井みかげと田辺雄一がそれぞれ自分の肉親を失った後、孤独と痛みを経て、最後に人生の方向を探してきたことが描かれている。本稿が対象するのは吉本ばななの「キッチン」であり、本稿の目的は、主人公たちの成長過程などを分析することで、作品に記述される感情表現の指摘や分析にある。この文章は、結果的に「キッチン」という作品は桜井みかげと田辺雄一の物語だけでないことを明らかにするとともに、作品を総括するのが、この小説の中の感情表現を明らかにすることとなるだろう。

キーワード:吉本ばなな;キッチン;感情表現;死と生;癒す力 

一 はじめに

    1. 作品について

 吉本ばななの「キッチン」は第六回海燕新人文学賞作として、『海燕』に掲載され、その三ヶ月後に後編として「満月ーキッチン2」が『海燕』に発表された。若者たちの間に大人気な小説として、この小説はキッチンをめぐって、主人公の桜みかげは家族を失った痛みや孤独を克服して、孤独の中で依存を探して、最後に苦しみと悲しみから脱出するという成長物語である。小説の中で表現されている感性や孤独などは現代日本人の若い人の内心を明らかにして、日本社会の重要な側面を反映している。

1.2先行研究

「キッチン」について、複数の観点から論が集まっている。まず、吉本ばななの作品は小説というより「物語」であるという指摘がある。吉本ばななの作品に対する研究は、主にその作品のモチーフや主人公の心理活動などを分析することでその癒し力・孤独感・死生観などを深く分析している。たとえば、周閲は『吉本芭娜娜的文学世界』(宁夏人民出版社 2005年)において、吉本ばななの成長や創造過程を通して、彼女の初期作品について詳しく分析して、それに吉本ばなな作品のなかの「家の解体・再編成」、「現実と非現実」、「死と癒し力」という三つのモチーフを指摘する。また、周異夫は『吉本芭娜娜文学的孤独主题和社会意義』(『日語学習与研究』2004年第4期)では、吉本ばななの作品のなかでは孤独感・寂しさがあふれていて、透明感のある文体と「現実と非現実」の中で、日本の若者たちの心の奥をよく表現して、その「癒し力」が彼女の作品の魅力であると述べている。

 次に、吉本ばななが語る「物語」とは何かなのかを具体的に検討する論がある。大塚英志は、『物語治療論――少女はなぜかつ丼を抱えて走るか』(講談社、1991年)において、吉本ばななの作品にはウラジミール・ブルップ「昔の形態字」で示された民話の構造と合致する特徴が備えられていることを指摘する。また、大塚は「吉本ばなな論、或いは記号的な日本語による小説の可能性をめぐって」で吉本ばななの作品世界は少女漫画というジャンルが描いた世界に類似しており、両者は現実社会や他者に対する「閉ざされ方」に興津性がある」と述べている。ほかに、ここ数年来、吉本ばなな作品と少女マンガとの関係について検討した論が増えている。

1.3研究目的

 これらの論を踏まえた上で、本論文は吉本ばななのデビューである「キッチン」をめぐって、この作品が単純的な「物語」ではなく、自我を描いてきた近代小説と同様に人間の心の奥を描こうとしていることがわかる。その上、作家が伝えようとしている感情表現について指摘と分析する。結果的に「キッチン」は主人公の桜井みかげと田辺雄一の物語だけでないことをわかり、この小説の中の感情表現を明らかにすることとなるだろう。

1.4研究方法

 まず、本稿は「文献研究法」を採用して、先行研究をよく参考し、研究現状を理解して、この作品の主人公たちの成長過程を分析して、その中の感情表現を深く分析して、「キッチン」を解読する。

 次に、この小説の日常的な言葉の運用、具体的な人物の描写及び主人公たちの言語行動から作家が伝えたいことを分析して、作品から得た啓示を描くことにする。

二 作家と「キッチン」について

2.1 作家の吉本ばなな

吉本ばななは有名な詩人である批評家の吉本隆明の次女として、1964年東京に生まれた。吉本ばななの本名は真秀子である。後に漫画家になる姉(ペンネームはハルノ宵子、代表作は『プロジェクト魔王』シリーズ全六卷(角川書店、1992‐‐1996年)などがある)の影響で、物心ついた頃から、手塚治や藤子不二雄の作品が大好きになってきた。子供のときから、生まれつき弱視の左目を鍛えるため、右目に眼帯をしていることが多く、ほとんど視覚をふさがれていた時期があった。その際、「オバケのQ太郎」やドラえもんなどの非現実的なキャラクターや、存在しない世界にアリティを感じることによって、不安を和らげていた。自身も漫画家にあこがれたが、姉と比べれば、絵がうまく描けなかったから、文章を書くようになったという。吉本ばななは日本の現代の有名な女性作家で、村上春樹と並んでヨーロッパなどの海外からも注目されている作家である。幼い頃から作家を志すのである。死や愛といったモチーフから、生きることの淋しさや美しさを自然に描き出すその作風は多くの人々の心を打つものがある。吉本ばななブームが世界で流行っている。

 1986年に大学卒業制作「ムーンライト シャドウ」は芸術学部長賞を受賞した。日本大学芸術学部を卒業した1987年に発表した「キッチン」はその年の海燕新人文学賞を受賞した。大人気のベストセラーとなり、世界各国で翻訳され多くの人に愛されている作品である。他の作品が「TUGUMZ」や「アムリタ」などがあり、「キッチン」をはじめ、多くの作品は海外30数カ国で翻訳、出版されている。

 小説のほかに、吉本ばななはエッセイや「ロッキンオンジャポン」という音楽雑誌で執筆して、奈良美智緒などのアーチィストと共同で本を出版するなど、いろんなメディアで注目され、活発な創作活動をしている。

2.2「キッチン」のあらすじ 

 「キッチン」のあらすじは以下の通りである。

 大学生の桜井みかげは両親を失い、祖父と祖母がみかげを育ていたが、「先日」祖母も他界してしまう。ついには天涯孤独の身となってしまう。台所が大好きな彼女はいつしか孤独を紛らわかのように冷蔵庫の脇で寝るようになっていた。そんなみかげの前に、ある日、祖母の知り合いであった青年の田辺雄一が現れ、自分の家に誘う。その後、オカマバーで働くえりこさん、優しいながらもどこか冷たさを感じさせる雄一との、奇妙な共同生活が始まっていた。クールだが親切な雄一や、妻をなくした後に性転換した母親のえりこさんとの生活は、知らず知らずのうちに疲れていったみかげを癒す。かつての恋人の宗太郎との最後の別れや、祖母と暮らした過去の整理などを経て、主人公のみかげは生きる力を取り戻し、「何度も苦しみ何度でもカムバックする。負けはしない。力は抜かない」と自らに誓う。

 では、ここで「キッチン」の物語構造を以下のように簡単に紹介しておこう。

  1. 肉親の死と孤独化――祖母が亡くなった後、御影が一人になる。
  2. 庇護者の登場と庇護――雄一が現れ田辺家へ居候することになる。
  3. 不安と孤独――田辺家で親切にしてもらうがみかげは依然として不安である。
  4. 超常現象の発生――みかげと雄一が同じ夢を見る。
  5. 結末としての成長――なんとなく生きていけそうな気がする。

 「キッチン」の三ヶ月に発表された「満月ーキッチン2」は、明らかに「キッチン」の続編として書かれている。つまり、「満月」は「キッチン」という時間の持続と蓄積を継承している。前作から半年後の秋、自立してひとりで暮らしていたみかげは、えりこさんが他者に殺されて死亡したことを、雄一に電話で分かった。えりこさんは身寄りがなく、妻の実家からも縁を切られちいたから、雄一も天涯孤独身にな「満月」という作品の中に、二人の気持ちは死に囲まれた闇の中で、緩やかなカーブをびったり寄り添えって回ているところである。冬になり、みかげは田辺家を出て大学を中退し、料理研究室のアシスタントをしていて、料理家になる道を歩み初めている。

 先に「キッチン」の物語構造を1~5の形で紹介したのだが、「満月」もまたその五段階の構造がしっかり当てはまるのである。確認のため、まとめるなら次の通りである。

  1. 肉親の死と孤独化――えりこさんが亡くなっ後、雄一が一人になる。
  2. 庇護者の登場と庇護――みかげが現れ雄一を慰め励ます。
  3. 不安と孤独――不安が消えない雄一は一人旅に出かける。
  4. 超常現象の発生――かつ丼を届けにいったみかげは雄一の宿泊するところを探し当てる。
  5. 結末としての成長――なんとなく生きていけそうな気がする。

 一瞥してわかるように、「満月」と「キッチン」の物語構造はだいたい一致している。つまり、「満月」は明らかに「キッチン」の続編として書かれている。物語の内容にそくして具合的に言うなら、「キッチン」は肉親の死によって孤独化したみかげが、雄一とえりこさんの現れで癒してくれた物語に対して、「満月」は肉親の死によって孤独化した雄一を今度はみかげが慰藉し回復に導くという物語である。「キッチン」と「満月」という両者は構造が同じであるが、その主体を変えることによって、みかげと雄一の「庇護する・庇護される」という関係を描き出しいるのだと言えるだろう。

三 主人公たちの孤独について

 この小説を読んだ時、一番印象的なのは主人公たちの内心の孤独感である。人生とは一人の孤独な旅であるということである。『キッチン』のはじめに、主人公の桜井みかげのことを詳しく描かれている。みかげが幼い頃に、両親を失い、祖父と祖母がみかげを育ていたが、「先日」に祖母も他界してしまう。みかげにとって、すべての肉親を失って、よりどころがなくなった。残したのは、ただ内心の孤独・絶望やである。そのため、みかげは台所が一番好きである。「キッチン」というタイトルのように、「台所」はこの小説の主な舞台である。「台所」は、ストーリの発展を進行させるものだけでなく、主人公のみかげの心理変化の過程をよく表現できるものでもある。台所について、彼女はこのように述べていた。「冷蔵庫のぶーんという音が、私を孤独な思考から守った。そこでは、結構安らかに長い夜が行き、朝が来てくれた。」ひょっとしたら、みかげは台所という家のシンボルから、暖かさを味わうことができる。

 えりこさんもみかげと同じく天涯孤独であった。「キッチン」の末尾で、えりこさんはみかげに「女になるのも大変よね」、「人生は本当にいっぺん絶望しないと、そこで本当に捨てらんないのは自分のどこなのかをわかんないと、本当に楽しいことが何かわからんないうちに大っきくなっちゃうと思うの」4と語る。えりこさんは、妻の死によって心の支えがなくなったかもしれない。その際、性転換をすることにした。これについて、木股氏、宮川健郎氏は「えりこさん」が死んだ妻と同一化することでその危機を脱したのだと述べる。えりこさんはその手段によって自己の拠り所を取り戻しようと思っていた。物語上には詳しく書かれていないが、その過程には相当な痛みと悩みがあったと考えている。そうした経験をした彼女だからこそ、みかげが一人になったことを知った後、自分なりの方法でみかげのことを理解し、助けてくることができる。最愛の妻の死を経験しながらも、「いやなことがめぐってくる率は決して、変わらんない」のであれば、その他のことは明るくしていたほうがいいという。みかげはその人生哲学に感動を覚える。

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